石崎健史、香田克也、佐川暢俊『知的創造社会実現に向けたビジネスク

 石崎健史、香田克也、佐川暢俊『知的創造社会実現に向けたビジネスクラウドへの取り組みとHarmonious Computingの進化』(日立評論2009年7月号 Vol.91 No.7)を読みました。

【1】一言紹介

  クラウドであっても高信頼なサービスがここにあります、という紹介記事です。

【2】メッセージ

 世間では「クラウド」なり「SaaS」というのが流行語になっています。企業におけるIT計画の主題も、外部サービスの利用が大きな話題となってきています。社内業務で利用するITサービスのうち、どれに外部サービスを利用するのかということです。そうなると「従来『所有』していたITを見直し、コアビジネスに直結しないものは外部のサービスを『利用』するように変えていく」(p.15)という総論は合意可能そうに思います。

 では外部サービスをすぐに利用するのかと思えば、そうではないようです。 

 私の周囲などみていても、まだまだ利用するには逡巡があるようです。逡巡の理由は、(既存の社内サービス部署からみた場合の雇用保全もあるのですが)インターネットとかネットワークというと「なんとなく不安」というところが大きいのではないでしょうか。要するに何かあったときに「お前が意思決定したではないか」「どうしてくれる」と言われるのが厭だ、というところでしょう。「何か」は判然としませんが、漏洩なり、データ攻撃なり、サービス元の倒産なりなどが浮かびます。そこで、売る側としては、この不安払拭がキーなのでしょう。

 企業内の社内業務情報は自社内に置けば安全、外部にあると怪しい、ということは無いのでしょう。自社であっても怪しいこともあるし、外部の方が堅固な点もあるのでしょう。

 不安の第一は印象の問題でしょう。第二は、何かあったときの社内の「責任」が提案者に来るのが怖い、という問題でしょう。そういう問題に対して「老舗だから安心です」という解でサービスを展開しますというメッセージであります。
 
 これはこれで一理あるように思いました。
 
 
【3】組み立て
 
 著者たちは、クラウドで、これまでの老舗としての情報化の実績による信頼性を強みとしてビジネスを展開されるようです。
 
 「金融系のシステム」において綿々たる実績があることを主張されておられます。情報技術を進化させつつも、「その基本となる、信頼性、性能などをきちんと保証してきたことで顧客からの信頼性を得ることができた」(p.16)というわけです。
 
 だからクラウドにおいても、「高信頼なクラウドコンピューティングサービスを『ビジネスクラウド』として提供していく方針」(p.16)ということだそうです。「あらゆる面で既存の基幹系システムと同等レベルを保証することをめざしている」(p.16)「豊富なシステム構築実績の経験とノウハウ」(p.17)「メインフレーム時代から培ってきた製品開発の実績」(p.19)といった安心提供の論調を繰り返しにじませておられます。


 ビジネスクラウドのサービスがいくつか紹介されています。
 この中で読者私が所属するようなタイプの企業として利用ニーズがありそうなのは「プライベートクラウドソリューション」ではないかと拝察しました。
 「顧客が保有する自社データセンターの中でクラウド技術を活用した社内システムを構築し、顧客の社内部門やグループ子会社に対してサービスを提供するモデル」(p.17)とある。
 これなら既存の組織も短期的には保持できて、グループの親子関係を通じて共用を図れるということになります。
 ある程度のコストメリットも計算できそうです。自社内ということで建前的なセキュリティは説明可能です。
 いかにも大企業の風土に馴染みそうなサービスです。 

 外部利用することによるメリットとして出せそうなのは「ID管理や課金管理といった基本機能」の部分ではないかと拝察しました。こちらの方は、今度は社内に対して、外部サービスを利用して課金をするのだから、ログインユーザIDを統合するぞ、という説得ができそうです。


 企業内においては説明は「外部は不安そうだけど、老舗だから大丈夫でしょう」「外部を使うんだから、利用者IDを統合しましょう」といった感じになると想像します。このあたり、企業の中の社内意思決定プロセスのクセがよく反映されているように思いました。