Dave Garwood (原著)山田 太郎 (監訳) 『製造業のBOM入門』日経BP社

Dave Garwood (原著)ネクステック株式会社(著訳)山田 太郎 (監訳) 『製造業のBOM入門』日経BP社〔2006/12〕を読みました。

【1】一言紹介

 一言で言えば製造業における構成部品表(BOM)の本です。BOMの重要性がわかる本です。

 製造業では構成部品表(BOM)の情報が部署別目的別に作成され、維持されていることが多いです。この情報を統合的に取り扱うことの効用、方法、アプローチが述べられています。 

【2】組立て

 本の作りとしては、二つの本が合体したような作りになっています。前半の2/3がアメリカのベテランコンサルタントDave Garwoodさんのやや随筆風の解説本。後半の1/3が日本のITサービス企業ネクステック株式会社による論文風の解説になっています。

 語り口も対照的です。Dave Garwoodさんの方はベテランコンサルタントらしくジョークも交えながら、「あの企業ではこうだった」、「こんな失敗談もみた」、と体験談を踏まえながら、豊富な知見を話してくれます。一方のネクステック株式会社の方は新進気鋭の論客による仮説という文体です。未来に向かったアピールという感じがします。

 二通りの文体が味わえます。(讃岐うどんの「ひやあつ」のような味わいがある本です)

 どちらも製造業では部品表情報(BOM)を統合的に扱うと便利であるという効用を述べられています。「どこの範囲を統合するのか」という範囲の捉えかたや「どうすれはそれが享受できるのか?」という方法論のところで、それぞれに個性があります。

【3】Dave Garwoodさんのメッセージ

 Dave Garwoodさんのメッセージを読者私は下記のように受け取りました。

 (1)BOMは製造業の部署全員が利用者だ。だが所管部署が特定されていない。特異な情報だ。
 (2)BOMは製品、プロセスを写像した重要な情報である。
 (3)重要な情報である。だから部署別に散在しているのはよくない。統合すべきだ。
 (4)モノづくりに必要は情報はすべてBOMにあるべきだ。
 (5)BOMを図面に依存させるような管理の仕方もある。だが、図面とBOMとは切り離して管理すべきだ。
    一意性識別の観点からみれば図面の識別ID:BOMの識別IDはN:Mのはずだからだ。
 (6)BOMは目的別に複数ある。だが、マスタとなるBOMがあるべきだ。
 (7)マスタとなるBOMにはモジュール化の考え方が必要だ。
    モジュール化とは製品の仕様を決定する要素をグルーピングすることだ。
 (8)モジュール化されたBOMがあると、ここから生産計画用のBOMも派生させることができる。
 (9)生産の現場では急遽代替品でまかなったりすることがある。
    構成部品情報は作業指示の都度変わることがある。
    そういうときには作業指示用に従属した都度都度のBOMを用意するのがよい。
 (10)BOMを運用するには変更業務、管理者が重要である。
    BOMを利用する上ではコンピュータは重要ではない。
 (11)ソフトウェアパッケージではモジュール化されたBOMが取り扱っていない。
    ソフトでは難しいことをやらず単純なものがよい。

 圧巻はモジュール化されたBOMを説明してくれるくだりです。著者Dave Garwoodさんは芝刈り機の例を使って説明されています。これはわかりやすいです。また、モジュール化されたBOMが効能を発揮した事例としてはブルーバード社というバス会社の例を体験談として取り上げておられます。
 
 実際には、このモジュール化は難しい作業と感じています。製品のモデル化ということが必要になります。要素間の依存関係も知らなければなりません。どのような要素によって仕様が決定されているかをモデル化する必要があります。

 この作業を担える人材が誰なのか。企業内で製品構造のモデル化を行うのは難しい。特に情報部門にはまるで無理というところがあります。Dave Garwoodさんの理想像実現するための条件ととらえました。

【4】ネクステック株式会社さんのメッセージ

ネクステック株式会社さんのメッセージの方は下記のようにうけとめました。「BOMはPLM(製品ライフサイクルの情報管理)のツールである」といった主張と捉えました。

 (1)売れる製品をタイミングよく市場へ投入するには仕様のマネジメントが必要である。
 (2)仕様をマネジメントする考え方としてPLMという考え方がある。
 (3)PLMにはBOMが必要だ。
 (4)市場投入のプロセスにはフェーズがある。このフェーズによって、また部署によってBOMの目的は異なる。
 (5)目的別の複数のBOMを効率的に連携させなければならない。
 (6)図面とBOMとの関係では、図面とBOMとは切り離すべきだ。
    連携・インタフェースを一方通行に設計するのがよい。
 (7)目的別BOMの連携を考えるには「共通単位」を発見する必要がある。
 (8)共通単位を発見すれば製品開発の作業スケジュールにも利用できる。
 (9)そういうアプローチのためにはデータモデリングが必要だ。
 (10)データをモデリングしてビジネス、サービス、情報、BOM構造、データの5層のモデル化をせよ。
    属性は品目によって異なるのである。(読者私にとってこれは賛同。かねてから重要なポイントと思っていた点です)
 (11)日本の製造業は強みを生かすには、受注設計型であれ、見込量産型であれ、CTO型へ移行すべきだ
 (12)それには顧客仕様を分解して外擦り合せ・中組み合わせ型の製品構造にすべきだ。
 (13)BOMを利用して、提案型営業、コスト作りこみに活用すべきだ。
 
 ここでの圧巻なのはふんだんに使われている解説図です。目的別のBOMを製品の市場投入フェーズと関係付けて模式的に示してくれます。
 
 Dave Garwoodさんは製品仕様のモデル化を主張されておられましたが、ネクステック株式会社さんの方はフェーズ・部署を横断したデータのモデリングが重要だと主張されておられます。
 
 これもなかなか難しい作業です。特に共通単位の発見をどのように行うか。この作業プロセスが重要であると思いました。さすがにそこまでは明示してくれません。おそらくネクステック株式会社さんのノウハウになっているのでしょう。

 目的別のBOMがうまーく連携できている、というのが理想像であることは理解できました。そしてそれには「共通単位の発見」というのが重要な条件になっていることが理解できました。
 
【5】読みどころ

 Dave Garwoodさんが芝刈り機のモデリングを説明されている箇所は読みどころだと思います。

 芝刈り機はサイズとエンジンと始動機で製品が一つに定まる。サイズに従属して軸受箱がきまる。だから軸受箱はサイズのグループに入れるという考え方です。共通部品はそれはそれで一まとまりにしておきます。このようにしてモジュール化を進めるのだそうです。

 ここで、サイズとエンジンとの組み合わせによって軸が決定されるというケースを要検討ケースとしてとりあげておられます。こういうときは軸を1サイズ化できないかという検討の機会だ、と言われています。

 ここまでくるとBOMは製品やプロセスの写像、鏡というよりも、生産システム改善の武器という地位になります。
 
 このような考え方は勉強になります。製品の一つ下のレベルの品目でバリエーションが激減するような場合、とても有効ですね。バス製造業のケースでは、実際にモジュール在庫を持つ戦略で在庫削減を達成した例をあげておられます。

【6】感謝

 BOMというのは地味な領域なのですが、携わるとそれなりに醍醐味があります。それはネクステック株式会社も書かれているように「BOM構築の最大のだいご味は、企業の基本構造にメスを入れることにあるのだ」(p.190)という側面だと思います。
 
 単なるアプリケーションに使われる基準値ではない側面を描き出してくれている点に感謝申し上げます。