佐藤知一、山崎誠『BOM/部品表入門』日本能率協会マネジメントセン

 佐藤知一、山崎誠『BOM/部品表入門』日本能率協会マネジメントセンター〔2005.1〕を読みました。

【1】一言紹介

 読者私は製造業のサラリーマンです。仕事に役に立ちそうな本というのを読むことも多いです。しかし、これほど魅力的な本には出会ったことがありませんでした。

 本書は製造業のサプライチェーンの在庫問題の本です。在庫問題を解決するにはBOMを活用せよという本です。問題そのものよりもBOMという解決手段の方に光をあてて、どう活用すればいいかを述べられています。

【2】メッセージ

 読者私は著者のメッセージを下記のように理解しました。
 (1)製造業のサプライチェーンには在庫問題という中心問題がある
 (2)これを解決するにはBOMを活用することが有効だ。
 (3)BOMは品目に関する属性情報、構成情報、工順情報、実績履歴情報によって構成される情報群だ。
 (4)BOMには目的によって使い方がある。
 (5)BOMを活用する仕組みを構築するには強いプロジェクト、人材が必要である。

 
【3】読み応え

 内容は(4)のBOMの使い方が中心です。

 読めば読むほど、BOMは個々の製造業の現実の特性や様相を写像する情報であることが理解できます。その写像の方法論がわかりやすく解説されています。現実を写像したBOMがまた物作りの現実に活用されることが解説されています。

 双方向の写像・転写にBOMの魅力があることがよく理解できました。

BOMが製造業の現実を写像するという方向の議論があります。在庫するなら品目を起こせ、品目の親子関係は工程でつなげ、工程には資源を対応させよ、試作段階から登録せよ、オプションはモジュール化BOMに入れろ、などといったメッセージが丁寧に説明されています。

 また、BOMをもとに業務を行い、モノを製造する、という現実への写像という方向の議論があります。マトリクス表現で部品の共通化を勧める、BOMを開示してサプライチェーンを効率化せよ、納期を回答せよ、材料の所要量計算に使え、指図書を出すことに使え、など、BOMの活用する場面がわかりやすく述べられています。

【4】著者の根底にある哲学

 著者の記述が魅力的なのは、製造業の様々な事実に対して謙虚な哲学をお持ちであるからだと思います。読者私は著者の哲学を下記のように理解しました。

 (1)物事は相対的なものであり、絶対の正解は無い。
 (2)どうすればよいかは個々の企業の特性と目的による。
 (3)個々の企業の現実を緻密に分析することが重要だ。
 (4)衆知を集めることが重要だ。
 (5)情報を集め、利用する技術が情報技術である。

【5】著者の語り口

 語り口も魅力です。
 BOMに関する本論は、コンサルタントが架空の企業の実務部門に質問を投げかけるという構成になっています。
 
 本論自体がBOMのような作りになっています。本論はこの質問から始まる約60の論考で組み立てられてます。
 
 論の始まりは「BOMをいくつお持ちですか?」といった具合です。一つ一つの章は、こういった質問を導入部で始まるだいたい2000字程度の記事になっています。

 この個々の記事がまた部品表のように下記のような要素によって組み立てられています。

 (1)ケース:こういうことが世の中によくあるという観察
 (2)問題:これは実はこういう問題なのだという問題設定
 (3)対策:これを解くにはこうすればよい
 (4)分析:なぜかというと、こういう定理がある。定石があるのだ。
 (5)本質:さらに根底にはこういう本質があるのだ。

 こうしたユニットが絶妙に構成され、実に読みやすく、理解しやすくなっています。

 更に豊富な事例が論拠となる部品のように挙げられています。この事例がまた著者の豊富な実践・実戦経験をうかがわせてくれます。
 ここがまた本書の魅力となっています。

【6】事例に共鳴

 事例として挙げられている製造業の実務場面については、とても親しみが湧くものが多かったです。自分の製造業での場面が想起されるような場面も多くありました。これがまた言い尽くせぬ本書の魅力の源泉であると思います。
 
以上