高任和夫『偽装報告』光文社〔2006.4〕



  品証部署というのはどういう部署であるのかを理解するのには好適な本です。小説だから判りやすいです。著者に感謝いたします。企業の業務プロセスの勉強という点で有益です。車の品証に携わる人々がどこに職業倫理を抱いているのか、そしてどのようにそれを行使するのか、が書き込まれています。「使える」本です。


 そもそも品証セクションが主人公になるなんて珍しいです。嬉しいです。世の中が変わったのか。この事件が大きかったからなのか。一般的には地味な部署だが、実は会社の死命を制する重要情報が集まっています。


  小説にはよく登場する粉飾決算や総会屋対策だけが秘密ではないと思います。経理や法務、総務だけが秘密ではないです。経理などは実はたいした秘密ではないです。経理、会計行為などは二次情報の処理に過ぎないと思っています。あらゆることがそこに結果として現れるのですけれども、まあそれは家で言えばゴミの日のゴミ袋のようなものだと思います。総務などは企業機構というフレームが重要なので秘密扱いになりますが、それは会社の外郭のようなものですね。家で言えば外装のようなものです。人事はその構成要素である人間の情報の中枢ではあります。家で言えば家具のようなものでしょう。また営業や開発が機密だと言うがそれも部分的なものですね。ひとつひとつの部屋のようなものであります。

  家で例えればそこで営まれる日々の生活そのものは、会社では商品そのものと企業活動そのもの、プロダクトとプロセスだと思います。この二つがが会社のコアなのだと思います。市場品証、よくCSなどと言われている部署はそのどちらについてもすべてに関係する中枢の部署です。だから会社にとっての専門性があります。アウトソースされないです。ここは絶対にインソースなのですね。商品に特化した専門性、市場に特化した専門性が要求されます。そして生の情報、一次的情報にアクセスを行う部署です。そしてそれが公知公認されている部署です。

 対照的なのは小説の中に出てくる軽油の業転取引ですね。こちらは実体と触れない。だから登場人物も軽油をみたことがないと悩んでいます。(p.61)

  しかし品証は違う。

  窓際族で、たいした情報には接していないはずだといわれる男も「品質保証本部のサービス部に所属していた」となれば重要な情報に接しているじゃないか、と見られます。プロダクトとプロセスに接するとなると品証の面目躍如です。 


 この小説には企業の内部プロセスならではの切迫感があります。


 ディテールが生き生きしています。

 冒頭ですが、ディーラーから不具合情報を報告させている商連書と呼ばれる内部文書、つまり商品情報連絡書を傾向分析すると特定系統の不具合が数多く記載されていることをたてにとってリコールを主張する場面が良いです。(p.38)

 また担当取締役からリコール判定会の召集せよ、と言われるシーンも良いです。ここで不正が指示されるわけです。 (p.98)


 また職業倫理が発露するシーン、斯波が市場品質を盾に開発部署に対して設計変更を要求する場面が良いです。(p.107)


  筆者としてはメッセージを効果的に伝えるための脚色・趣向、つまり手段である「細部」は、私のような読者にとっては主眼であり、購入目的です。こういう作品はとても勉強になります。