成毛眞『新世代ビジネス、知っておきたい四賢人版マーケティングの心得』文春文庫[2004.11]

  マイクロソフトに居た成毛さんの対談本、相手は松村劭唐津一、和田秀樹、安延申の四氏。 

四氏との対談を通じて、商品、ビジネスの構想から設計から実施から検証から継続という包括的な過程が浮かび上がるという見事な本だ。要するに以下のようなことが浮かび上がります。

  (1)自分が愛すべき商品は何か。売りたいものは何なのか、考えよ。
  (2)そのためのビジネスモデルを自分で考えろ。
  (3)そのためのプロセスを考えろ。ITの時代なんだから売り方から作り方からつながってくる。
     プロセスをつなげるチャンスなのだ。
     プロセスはビジネスモデルから自分で導けるはずだ。
  (4)そしてやってみろ。やってみて、実証してゆけ。やってみて成功や失敗を調べろ。
  (5)その過程でつねに自分の愛すべき商品のためにやれ。
     常に肯定的に捉えて、成功したものを伸ばしてゆけ。

  非常にまっとうでわかりやすいことを、それぞれの方々の経験の裏づけが対談で語られています。読みやすいかたちで伝わってきます。対談集ならではの成果と思います。

  「マーケティングとは商品の売り方を決める作業、もっと広く言うと、商品のできてくるプロセス全体をコントロールする作業である。そして、日本企業にはその全体を見る立場の人間がいない、ということになる。ITの時代というのは、『いかに売るか』を考えることが『何をつくるか』や『どうつくるか』にまで直結してしまう時代だ。しかし、日本の企業にはそれをトータルに見ることができる人材が育っていない。」(p.11)


  相変わらず、ここでも唐津さんの発言がとても良い。分かりやすい、断定的で爽快である。「私のやり方は簡単なんですよ。いつも現場へ行って見ているんです。」(p.72)「私の話に理屈は1つもない。全部実証です。」(p.75)「たいていの人は訓練するとわかるようになります。人間、そんなにバカじゃない」(p.78)「売りながら調べる。売ったら調べなきゃいけない。これを繰り返していくことで、規則性が見つかってくるもんです。ところが、売れるとみんな、安心してしまって、売りっぱなしなんですね。もったいない。」(p.92)「失敗をいくら集めたって成功しません。普通は『失敗は成功の母』って言いますが嘘です(笑)。『成功は成功の母』なんですよ。」(p.94)


  思わぬ収穫は和田さんとの対談で出てくる「自己愛」の話。アメリカの精神分析で競争に勝ち残ったのが、患者の自己愛を満たしてくれる「コフート学派」であったという話。いい気持ちにさせる肯定の学派だそうだ。子供を親が「ほめる」「安心させる」というところからきていて、さらに同一感を与えるというのが自己愛を満たす要素であるらしい。肯定の精神が大事というのは大変納得できる考え方である。自己愛を満たすような商品を作れ、ということになってゆく。日本では日本人の自己愛を満たしていないというのが問題だ、と。


 安延さんとの対談では「石炭」がひっかかった。激変緩和というのが国の役割であるとのこと。だから経済産業省では、石炭には100人くらいで担当しているという話だ。「変わらざるを得ない状況なのに、自分でビジネスモデルを作ってマーケティングをすることができない会社が相変わらず多いね。」(p.177)

対談を4編読むと、基本がまっすぐと通るような爽快感がある本です。