岡田謙一『協調作業におけるコミュニケーーション支援』電子情報通信学会誌Vol.89,No.3,2006〔2006.3〕

  岡田氏は協調作業を支援する技術について論じられ、御自分で開発されておられるシステムをご紹介してくれています。すばらしい分析です。最近の私の遭遇している現場問題の解明に大変参考になります。でも、ご紹介されているシステムはその問題を解決はできなそうです。困りました。

  岡田さんが整頓してくれた「協調の階層モデル」は大変参考になります。 『複数の人が集まり、お互いに気づき、意識を共有して、新しい価値を創造するという人間のかかわりの深さ』(p.214)を階層モデルとして表現されています。『それぞれのプロセスが機能するためには下のプロセスが支援されている必要がある』(p.215)というモデルです。

  引用;文中で図2として掲載されている「協調の階層モデル」

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コラボレーション

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コミュニケーション

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アウェアネス

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コプレゼンス

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  私が働いている企業現場の大部屋というシステムを考える上では、岡田氏の協調の階層モデルが勉強になります。大部屋ですから、コプレゼンス層は保証されています。よく注意をしていればアウェアネス層は確保されます。そしてこの一つ上のコミュニケーション層があり、そこを前提にして協調作業がある、という整頓はすばらしいです。

  問題はこのコミュニケーションスキルなのです。

   『日常の対面コミュニケーションにおいては、相手の状況を認知し話しかけるタイミングを測ることや、視線の動きにより相手の興味対象や感情を推し量ることがごく普通に行われている』(p.214)

  この技術というのはあたりまえに備わっていると思っているとそうでもなく、意外にここが欠けているために業務がうまくできないという人をよくみます。いかに大部屋でアウェアネスまで確保されていても、コミュニケーション層は自ら行動を起こさなければ確保されません。

  このような技術を発揮しなければならない局面で最たるものは「アポを取る」という技術ですね。まずは電話ではなく、その大部屋に居る同僚や上司とアポを取るという技術です。タイミングを測ったり、相手の視線を洞察したりする間合いのある種の緊張感というのはアンテナを張っていないといけないわけである種の「常時接続」のモードでなければなりません。ところがこれがなかなかできないという人がいます。協調の第一歩ができないので成果をあげられないのですね。

  とりわけ大部屋オフィスにいるスタッフというのは「常時接続モード」でなければ成果はあがりません。訪れる人、かかってくる電話、他のスタッフの会話、そういうものに耳を済ませて、しかも自分の作業は進めなければなりません。ある意味で大部屋システムの優れたところです。「常時接続モード」が苦手な人はこの大部屋システムに適合できない、活かせないんですよね。

  ひたすら話しかけられるのに反応するだけでは相手の必要に応えることはできても、自らの成果を達成することはできないわけです。仮に相手からの契機作りでコラボレーションができたといっても一方通行になります。極端に言えばコールセンターの受付のような業務しかできないことになります。

   こういう人々のスキルを補うような情報技術はあるのか、といえば、それは難しいだろうと推測致します。困りました…。自分の仕事の現場である企業内にあてはめてみると、岡田さんが紹介してくれているような装置で効果をあげる以前の「それ以前の段階」に思いがめぐってしまいます。業務現場でおきている制約は、岡田氏が整頓してくれた段階の絵(後述)で言えば一つ下の層になるように思えます。ここは情報技術が貢献できるところではなさそうなので、岡田氏の責任ではないのですが、現場からみると、どのように制約を取り除けば良いのかの解が無いままなのです。

岡田謙一『協調作業におけるコミュニケーーション支援』電子情報通信学会誌Vol.89,No.3,2006〔2006.3〕