市田嵩、牧野鉄治『デザインレビュー』日科技連(1981.8)
  


  これは必読書。座右に置いておきたい著作です。物事を進めるときに、フェーズを切って計画をして、節目を持って進度を確認・共有する、というような基本的なことです。だが、この手のことがこの本が書かれた時期に始まったのではないか、と思わせるあたりに意義があります。原典だと言えるので、原則が判るのですね。訳語が少々現代的でないのがまた良いです。それがこの本がいかに先駆的な書であったかを裏づけているのではないでしょうか。この業界で訳語がこなれたのはこの「後」なのでしょう。


  私自身は基本的に情報化投資案件をどのように企画段階でレビューするか、という観点で読みました。世間にはこの種の本は結構出ています。経営戦略からの妥当性とか費用対効果のことが書かれていることが多いです。まあ、ソフト開発の分野ではメソドロジーなんていう言葉が流行した時期もありましたが、聞かなくなりました。


  さて、私の関心事である社内業務を対象にした案件を考える上でも、こういう商品そのものの設計の方の知見に触れると栄養が得られます。

  まず、ありがたいのは定義が出ていることです。「デザインレビューとは、製品の設計品質およびそれを具現するために計画された製造・据付け・使用・保全などのプロセスについて、客観的に知識を集めて評価し、改善点を提案し、次の段階に進みうる状態にあることを確認する組織的活動の体系ということができよう。」(まえがき)とあります。いいですね。背筋が伸びるような定義です。

  さて大切なのは、権限との関係ですね。本書は権限を持たないという立場です。「設計について責任と権限を持つのは、設計を担当する部門であることを明確にしておくこと。DRの提案をとるかとらないかは設計部門自身である」(p.19)

  ここは…はてさてどうでしょう?自分の身の回りと比較すれば、これはかなり紳士の世界なのですね。
  
  いったい誰がレビューチームを構成するのでしょう?さすがにこれは「会社内から適任者を選定することが意外に困難なことが多い」(p.113)とありますね。参加する側は「DRの前にデータパッケージをよく読み、設計の内容をよく把握してレビューに出席しなければならない」(p.135)「これら準備に必要な時間はレビュー時間の3〜5倍と見込まれており」(p.135)「大変な努力が必要である」(p.135)

  責任と権限も無く、見識と良心をボランティアで投入するという献身的行為なのですね。 
  
  そのような献身的なDRを行うには「設計が標準化されている」「社内関係者が効果を認知している」「実施手順が確立している」「設計者にDRに必要な資料の作成に協力させること」が必要であると述べています。(p.170)

  またまた自分の周囲を鑑みると、かなりハードルが高い、高踏的なムードですね。
 

  で、成果はなにか?それはアクションアイテム「要処置事項」であるとあります。クラスA「変更が決定」、クラスB「変更の内容も決定」、クラスCが「変更不要だが処置必要」だそうです。これらについて期限と担当者を決める。それを確認するのが「フォローアップ」で、当時の訳語は「追求管理」でありました。(p.144)

  何度も自分の周囲と比較しますが、この「フォローアップ」を誰が召集するか、というのもまた課題です。また情報化投資の場合、投資の施主がこういう召集に応じるかどうか…たいていは業者に急がされて「納期」に脅かされて、フライングしているものですね。

  
  まあ、それはさておき。いざ、組織がこの前提さえ満たされているのであれば、以下、どういう段階で何を目的に行うか、そのために何を準備して、誰がどんな内容をレビューするのかということが丁寧に解説されていて助かります。目的は「構成要素を正しくする」「価値をあげる」。内容は「精度の必要性」「故障減少の必要性」「環境からみた必要性」「ユーザーの要求からみた必要性」だということです。(p.114)

  その助けになるのが「設計解析手法」であり、これが事前の資料として加えられることが意味があると述べられています。「とかく抽象的になりやすい信頼性・安全性・保全性・人間工学などに関する議論において、客観性のある結論が与えられ、DR、ミーティングの時間の短縮および内容の充実を計ることができる」とのことであります。(p.61)

  訳語が今となっては少し変ですが「任務環境プロファイルと運用寿命プロファイル」が重要だとあります。「冗長設計」「信頼度予測」「ストレスストレングスモデルによる評価」「FMECAとFTA」「トレードオフ」「安全性解析」「人間工学設計」「保全性設計」「バリューアナリシス」「スケジュール管理」。さすがに原典だけあって、使えます。

  また現在も広く使われているツールとして「チェックリスト」があります。(p.160)「製造段階の不具合や出荷後のクレームをチェックリストに反映させて、DRの質の向上を計ることが大切である」(p.163)とある。標準化に関係するが、段階毎にどんなレビューをすれば良いかという表のサンプルもでています。(p.209)まずはこの程度からでしょうね。この程度だけでも相当にデザインレビュー道?を極めた組織になれると思います。