ビル・エモット『日本はなぜよみがえったのか?日はまた昇る−日本経済復活の秘密』文藝春秋[2006.2]

  東谷暁氏がロンドンのグリーンパークのエコノミスト編集部まで行って取材されてきた、ビル・エモット氏の日本経済についてのコメントが読めます。

  ゆっくりとやってきたことが正解だ、というのが面白いです。マスコミ論調というのは性急論に傾きがちなんですよね。その方が面白いから。だが現実といのは面白いものではないです。『あまりに急激な改革を行なうと、デフレを引き起こす危険性があります』(p.113)というわけで、改革は必要だが方法としてはゆっくりが良いという御見解のようです。

  小泉改革については、それがゆっくりとしているから支持されるのだ、とされています。なかなか慧眼です。公共投資縮小も『十五年くらいの間にゆっくりと時間をかけて変わってきている。そうしたゆっくりとした変化を国民は支持したのです。』(p.113)


    聞き手の方は、国民は馬鹿でだまされたのだという方向に編集したいというか、もってゆきたいというフシがみえます。意地悪な質問ばかりしています。どうも言論専業の方々がそうでない人々に対して「啓蒙してやろう」とする妄想は救いがたいものです。未来などは断定的に予想できるものではないのに、不安を煽り、性急な解答を求める癖があります。困ったものです。誰だって、施策の全部が成功するなんてことがあるわけがない。現実の世界は可能性と確率の問題です。

  『日本流のマネジメントは今後も続いていくと思いますが、変化はしていくでしょう。たとえば、会社は百パーセント絶対的な存在だったのが、九〇パーセントくらいのたしかさになっていく。そういう形でのフレキシビリティが導入されていくんです。それが現在起きている変化なのです。』(p.118)

これが健全な常識というものでしょう。なにかの話題に対して、つねに、すべてがそうではないだろう、と考える健全さを感じました。

  100%が90%になる変化なんて、マスコミ的には実に「つまらない」変化なんでしょうね。しかし変化は変化というわけで、このへんを見てゆく視点には感心致します。