エイドリアン・スライウォツキー『ザ・プロフィット』ダイヤモンド社

エイドリアン・スライウォツキー『ザ・プロフィット』ダイヤモンド社〔2002.12〕を読みました。


【1】一言紹介

 ビジネスの成功に不可欠な利益の上げ方のパタンについてわかりやすく教えてくれます。

 設定は、物語仕立てであります。大企業デルモア社の戦略企画部門に勤めるスティーブ・ガードナーという若者が、「ビジネスで利益が生まれる仕組みを知り尽くした男」(p.3)であるデビット・チャオから毎週土曜日にレクチャーを受けるという設定になっています。土曜日の都度ということで読みきり形式の章立てになっています。


【2】メッセージ

 利益をあげるにはどうすればいいか。読者私は下記のメッセージを受け取りました。

 利益をあげるにはパタンを学び、自分で考えよ。そのためには成長しなければならない、そしてそれは可能である、現にスティーブが成長したではないか。そのためにはチャオが言っているような考え方、やり方がある。粘り強くやれ、思い込みに執着するな、憶測ではなく事実にあたれ、数字を用いて語れ、遊びだと思って楽しみながらやれ、などだ。もっとも重要なのは顧客を理解するということだ。顧客とともに時間をすごせ。


【3】組み立て

 事例と考え方がミックスされていて、パタンが理解できて、自分で考えられるようになるように組み立てられています。

 一つ一つの章とあり方としては23の章にそれぞれ一つずつ、企業が利益を生む方法、利益モデルの説明が割り当てられています。前半はチャオの解説、スティーブの質問、チャオのアドバイス、そしてチャオから読書課題が出される、という構成です。これが終章に近づくと、スティーブが自分でリサーチしてきた分析をチャオが聞き、コメントするという構成に変わってゆくのが見所になっています。

 全体の流れは3つの流れが織り込まれています。第一のメインのストーリーはスティーブとチャオの対話形式で、モデルの説明がされるというのであります。もう一つの本質的なストーリーとしては、スティーブが明らかに徐々に成長をしてゆくプロセスが組み込まれています。さらに成長するスティーブが実際にデルモア社の中で試行錯誤を通じて成功に近づいてゆく過程が描かれます。

 構成要素としては下記の7つによって組み立てられています。
(1)モデルについての解説と質疑
(2)そのモデルを(チャオが)知りえたきっかけとなった見聞・経験談
(3)仕事のしかたについてのアドバイス
(4)勉強のしかたについてのアドバイス
(5)根幹を成す物の考え方についてのアドバイス
(6)チャオの職業観、企業観
(7)デルモア社でのスティーブの仕事へのアドバイス


【4】アプローチ

 この道30年のベテランであるチャオやチャオが見てきた成功者たちがどういうアプローチで業績をあげてきたかを語る部分は勉強になります。

 基本的には「インタビュー」であり「膨大な本を読み漁り」であり「数字をつかむ」であります。要するに聞き取りと読み取りなのですね。別に特別の秘訣があるわけではないというところがよくわかりました。

【5】味わい

 チャオの職業観のようなものが語られているときにちょっと醒めた含蓄・味わいがあります。

 「誰かに頼りにされているという状況がなければ仕事を完成させることはできない」(p.45)といった箴言も味わいがあります。

 成功しすぎた男が会社を追われたシーンについてのコメントもいいです。「簡単だよ、何と言おうと彼らの会社なんだ。お金を握っているのは彼らだからね。彼は笑顔で自分のオフィスをすっかり整理して出て行った」(p.94)
チャオの職業倫理の根底にある思いのようなもの−コンサルもスタッフもオーナーではない、といった思いを感じます。


【6】感謝

 「ビジネスのデザイン」ということについて、このように洒落た物語で表現されたものはなかなか無いです。著者および訳者に感謝申し上げます。