Kenneth N.Mckay/Vincent C.S.Wires著 中野一夫/西岡靖之監修『生き残るための生産管理マネジメント』日経BP社〔2005.10〕 


  製造業における生産管理という仕事、実務に対して、なんとかこれを情報システムによって支援しようという生産管理システムという分野であります。そんな分野の魅力を伝えてくれる好著です。それだけで既に感謝申し上げます。

  あまりに豊かな本であります。たくさんの読み方ができます。
(1)現場知に満ちた小粋な箴言集としても読めます。
(2)生産管理という職種に対しての、既成の定義ではない、現場目線の新たな定義をする提起の本としても読めます。(事実、目の醒めるような定義が提起されています)
(3)はたまた生産管理を越えてマネージメントというものはどうあるべきかを実務ベースで明らかにした本、実用書としても読めます。
(4)あるいはSCMの実務家が集中か分散かで悩んだりしたときの羅針盤、ガイド本としても読めます。
(5)一方で、情報システム設計という観点からの心得本としても読めます。
(6)更に更に、いかがわしいコンサルタントを論破する論争本にもなります。
(7)そしてそして苦労話に共感するという情緒的な目的で泣くための本としても読めます。
なんて凄い本なんでしょうか。参りました。

  この本を読んでいる最中というのは、饒舌で軽妙な達人の絶好調の芸談・楽屋噺・トークを聞いているような感じが致します。経験知、現場知の裏付けのあるオリジナリティのある方と語り合っているような充実感があります。


  実はこの分野はわが半生を賭けた分野であります。この分野が語られることはほとんどありません。小説の主人公にもならないし、ドラマにも描かれず、回顧録も出ない。○○屋とか△△畑という言い方をするとしても、生産管理のライン部門からみれば当事者ではないシステム屋と扱われ、情報システム専業の方々からみれば汎用化外販の見込みの無い現場系の人とみえる。制御システムの方々からみれば間接部門にみえる。会計システムの方々からみれば現場ローカルシステムに見える。文系からみれば理系、理系からみれば文系… だがしかし、汲めどもつきせぬ魅力がありすぎる世界です。魅力の虜になると、竜宮城に行った浦島太郎のように時を忘れ、浦島のように年齢を重ねてしまいます。

  会計システムが過去の出来事をある断面で語る数字作りであるのと異なり、生産管理システムは現場を流れる時間軸の上で過去、現在、未来を扱います。実物があり、情報があり、スケジュールがあります。情報工学も経営工学も遠めに見ているだけ、という分野です。

  この分野を語るときに、いろいろは流行語から語る切り口もあります。PERTもORもIEもMRPもMESもERPもCIMもSCMも…みな通り過ぎていった流行語でありました。本書は、そういう言葉の舞いではなく、ことの実相が書かれています。やった人でなければわからない手触りがあります。