雑誌『新医療』2007年2月号特集『中小病院のIT化はなぜ急務なのか』
(眞柄義一『診療に活かされるITのメリットと現実』、
 飯田修平『病院のIT化は真に経営に貢献しているか』)

  エム・イー振興協会が発行している雑誌『新医療』の2007年2月号の総特集「中小病院のIT化はなぜ急務なのか」というタイトルは魅力的です。病院のIT化といえば、医事会計から始まってオーダリングシステムがあり、電子カルテへという趨勢があるようです。また一方で画像情報や物流情報のような対象分野もあります。多様です。その多様な領域において「IT化」つまり情報技術利用がなぜ必要なのかを明らかにしてくれるのではないか、と期待して拝読致しました。

  
  なぜ急務なのでしょうか?

  素直に特集を拝読致しますと3つほどの論点があるように思います。

(1)わが国の医療全体のためである、だからそれは国民のためなのだ、という高い?意識からの論考があります。

(2)次に病院が生き残るために「IT化」が必要なのだという病院経営的な要求があります。

(3)そして3つ目に医療現場のために「IT化」が必要なのだ、という差し迫った事情があります。患者と医療とが直接に向き合う現場の医療プロセスをよくするために必要なのだ、というわけですね。

  そして、この3つを総合して述べられているのが「地域の病診連携、診療情報の連携が必要だ」という理由です。そのための財源や動機付けをどうするかというような考察もありました。
 
  特集の構成はインタビューが1本、巻頭論文が1本、経営的観点からの論文が5本、事例報告が5本です。充実しています。先の3つの立場がそれぞれ登場します。ある程度のバランスでこの問題を理解することができました。編集の方々に感謝申し上げます。

  自分からするとやはり第3の理由、個々の病院の個々のビジネスプロセスからの「急務」、即ち作業工程からの具体的な要請というのが本質であると理解しました。実際に切迫感が伝わるのもこの観点です。

  この観点を主張されているのが事例報告では眞柄義一様、論文では飯田修平様であります。


  事例報告では、福井県の中村病院で画像情報センターにお勤めの眞柄義一さんのレポート「診療に活かされるITのメリットと現実−IT推進病院としての総括と方向性」(p.76)が勉強になります。
 
  眞柄様は中村病院様の個別事情を明快に説明されておられます。中村病院では、脳神経外科やら循環器科のような各診療科の医師の方々が画像をみながら診療を行っているという特性があります。この特性からすれば、各診療現場に対してリアルタイムに画像を供給することが必要と述べられています。加えて、昨今の機器の傾向として、モダリティの進歩と多様化があるとのことです。結果として画像情報量が著しく増大していて、その増大する量の問題を解決しなければならない。その問題解決のためにITを利用しようという文脈です。


  このように説明をして下さいますと、確かに急務ということが理解できます。情報技術を利用して、医療現場のプロセスへの貢献する施策であります。具体的には、医療現場で過去データを閲覧できるようにするとか、あるいはレポートを書けるようにするというように仕様が検討されたことが報告されています。目的から手段を導出するという、しごくまっとうなる情報技術利用施策であります。わかりやすいです。

  眞柄様は「IT化が医療職種の効率化や利便性を図る手段ではない」と断言されておられるのが、とてもよくわかりました。
  
 
  論文の方では、練馬総合病院の飯田修平院長が「病院のIT化は真に経営に貢献しているか」(p.45)で「一般論ではなく、自院の業務フローを具体的かつ詳細に分析すること」(p.45)が必要と指摘されておられます。そして、ありがちな問題として「途中で目的からそれる」(p.47)という点を挙げられておられます。飯田様の論文を拝読いたしますと、病院におけるIT利用施策も、製造業における情報投資も、同じような問題に逢着することを理解いたしました。この「途中で目的がそれる」というのはよく理解できます。
  
  飯田様は実際に経済産業省事業へも参画されておられて、情報システム導入指導者育成プログラムなどを手がけておられるようです。このような地道なる努力をされている方がいらっしゃることを知り、大変啓発されました。
  
  
  この特集テーマである「なぜ急務なのか?」という問いに対して、「そういう時代だから」というようなムードに流された曖昧な回答ではなく、眞柄様や飯田様のように、医療現場、つまり業務プロセスの現場の問題解決というところから発想されることが本質でありますね。そのことをますます感じた次第であります。

以上