山田太郎『日本製造業の次世代戦略 知られざる「第三の敗戦」の危機

山田太郎『日本製造業の次世代戦略 知られざる「第三の敗戦」の危機』東洋経済新報社〔2007.3〕を拝読しました。

【1】感謝

 本書は、2007年冒頭時点の日本経済というマクロな状況から話が始まります。そして、話題はBOMというこれまで地味であった情報システムの具体的な話題に至ります。その視野の広さは見事であると思いました。地味なBOMという世界にマクロ経済的意味を与えてくださった著者に感謝申し上げます。

【2】メッセージ
 
日本の製造業に対する提言の書であります。

 これまで美風と思っていることは通用しなくなる。時代に合わせて価値観を変えなければならない。そうしないと製造業は「第三の敗戦」(第二次大戦とマネー敗戦に続く第三の敗戦というわけです)を迎える、と主張されています。

 ではどうするか。「新しい時代の新しいやり方」(p.222)を提案しておられます。新しいやり方は「プロダクトイノベーション」(p.56)であり、「製品それぞれの付加価値を向上させる」(p.176)ためにBOM(部品構成情報)を活用することだ、とされています。

【3】組み立て

 昨今の変化を「ネットワーク化」という言葉で説明をされておられます。そういう時代には「製品の戦略的自由度」が重要と仮説を提起されるという文脈になっています。「戦略的自由度」というのは難しい言葉ですが、要するに、QCDをこうしたいと思ったときに、そのようにできやすい、というような意味だと理解しました。その「自由度」を持つための策として提案されるのがBOMという流れです。

 ネットワーク→戦略的自由度→BOMというのが文脈となっています。読者私は下記のように理解しました。


 (1)ネットワーク化

 20世紀後半の日本の製造業は強かった。それは大量生産大量販売であったからだ。だが20世紀末から情報の非対称性がくずれた。何が変わったのか、それは「ネットワーク化」である。
 
 一方で、わが国はせっかく持っていた「日本型サプライチェーン」(p.86)ネットワークを失ってしまった。「部品の調達先をどんどん海外へと移行」(p.87)させ「どんどん技術移転を行った」(p.87)からだ。それは中長期視点が無かったからだ。

 ネットワーク化とは、製品が機能毎に切り出されて、ネットワークでつながって、スペックを実現するということだ。その機能を構成する製品機能、プロセスはグローバルに調達する。そういうやり方の時代になってきた。

 この時代では、職人だ、匠だという美風は通用しない。ていねいに作ること自体に満足していては駄目だ。器用だからといってモジュール化に遅れる。新製品が多く出過ぎる。オーバースペックになりがちだ。改革といってもプロセス改革ばかりでは駄目だ。


(2)製品の戦略的自由度

 プロダクト改革をしなければならない。プロダクトを要素分解して、QCDに対する「戦略的自由度」を持てるようにしなければならない。経営の判断をスペックに反映できるようにしなければならない。そのためにスペックを経営判断に生かす工夫が必要だ。
 
(3)製品仕様情報の集積はBOMで行う
 
 それには製品の仕様情報を集積しておかなければならない。「マスターデータを精巧にする」(p.178)ことが必要だ。それにはBOMという情報が必要。

 自社の製品の仕様情報を集積。製品の仕様を3つの層に分ける。プラットフォーム部分とオプション部分とカストマイズ部分にわけて捉えてモデル化して、どこに競争力があるかを特定し、自社でやること、他社に依存するところに分け、仕様情報はBOMという器に集積する。このBOMを仕事の中心に据える。業務もその単位で「タスクユニット」として定義をして、プロマネが責任を持ってマネージメントするようなやり方をとるべきだ。旧来のような組織間のバケツリレーでは駄目だ。組織と製品構成の間の自由度も高めなければならない。


【4】本書の趣向

 ネットワーク化という言葉が非常に多く登場します。重要なキーワードと理解しました。

 この言葉は非常に多義的で広義な言葉です。本書の中でもいろいろな観点で使われています。あるときは物流のネットワークを表しています。あるときは製品の中の機能のネットワークを指します。またあるときは産業連関のネットワークを指しています。

 著者は非常に明晰な方でありますので、ネットワークというキーワードで視点が飛躍します。その飛躍の妙味が本書の魅力となっています。


以上